制御盤機器の熱対策のポイント

2023年9月13日

制御盤に使用する機器類は熱に弱く、熱対策をしっかり行うことは、制御盤を長く使用するための大切なポイントとなります。熱対策にはいくつか方法がありますが、それぞれ長所と短所があるため、使用環境により対策方法を使い分ける必要があります。

ここでは、制御盤機器を保護するための熱対策のポイントをご紹介します。

1. 熱が制御盤機器に与える影響

制御盤は、気温の上がる屋外や湿度が高い場所、さらに埃の多い場所といった過酷な環境で使用されることが多いものです。しかし、このような過酷な環境は制御盤の寿命を短くしてしまうため、制御盤を使用する際には特に注意が必要になります。

制御盤は高温に弱いにもかかわらず、内蔵された様々な機器類からの発熱により、盤内の温度は外気よりも20度程度高くなることもあります。特に夏場は盤内温度が50度を超えてしまうこともあり、このような高温化で使用した場合、盤内の電子機器の寿命が縮まり、不具合を起こしやすくなります。

1.1. 故障する可能性が高くなる

一般的に制御盤の使用温度は50度以下を想定しており、50度以上の高温で使用すると故障率が高くなります。実際、制御盤の不具合は熱によるショートが多く、高温環境での使用には特に注意が必要です。

制御盤には様々な機器が使用されており、この機器が一つでも故障すると、正常に動作せずにラインの停止が起こったり、歩留まりが悪化したりと、生産性の低下に直結してしまいます。

1.2. 寿命を大幅に縮める

制御盤に使用されている電子機器には、半導体や電解コンデンサなど、熱に弱い素子が使用されています。半導体は高温になるとキャリアが増え、その分電流を多く流してしまう特徴があります。これにより過剰に発熱してしまい、その発熱がまた過剰に電流を流す悪循環が生まれます。この熱暴走が起こることで破損に繋がります。

また、電解コンデンサの場合、内部に電解液が使用されていますが、この液体は高温になると漏れやすくなります。電解液が漏れると静電容量が低下し、破損につながりやすくなります。電解コンデンサが壊れた場合は、壊れたコンデンサのみを交換すればいい訳ではなく、ボードや機器の交換が必要となります。

また、素子には寿命があります。この寿命はアレニウスの法則と呼ばれる法則に従っており、使用温度により大きく変化することが知られています。一般には10度温度が上がれば寿命は1/2になり、20度上がれば1/4と、指数関数的に変化することが知られています。つまり、制御盤内の温度が外気よりも20度高ければ、素子の寿命は1/4になり、その分故障が発生しやすくなります。

2. 想定される制御盤機器の高温トラブル

制御盤の設計と製造を終え、納品後に装置も上手く動作していたにもかかわらず、思いがけないトラブルが発生することがあります。ここでは、想定される制御盤機器のトラブルをご紹介します。

2.1. 建物取り壊しにより高温に

制御盤は、建物の陰になっていて直射日光が当たらず、温度が上がりにくい場所に設置されるのが一般的です。そのような環境であれば、遮光版を取り付けずに置くこともあります。

しかし、陰になっていた建物が取り壊された場合、日照の環境が変化することがあります。日光を遮っていた建物が無くなることで直射日光に晒されるようになれば、制御盤の温度は必然的に上がってしまいます。

制御盤を取り付ける際には、将来にわたり起こり得るあらゆる可能性を考慮する必要があります。

2.2. レイアウトの変更により想定外の高温環境に

日照の変化によるトラブルは、屋内でも発生する可能性があります。

工場内では、生産の変更に伴ってレイアウトが変わる場合があります。ありがちなケースは、制御盤の近くに熱源となるヒーターなどが置かれてしまうことです。そのような状況に置かれると、制御盤内部の温度が上昇してしまうだけでなく、冷却ファンを使用している場合、ファンがヒーターからの熱を吸い込んでしまって冷却効果が低下し、故障に繋がります。

このような想定外の事態を避けるためにも、周囲の環境の変化に敏感になり、リスクアセスメントを徹底する姿勢が必要となります。

3. 制御盤機器の熱対策

Ice Cold Ice macro

制御盤の加熱対策は大きく3つあります。遮蔽・放熱・冷却です。これらの具体的な対応方法を4つご紹介します。

3.1. 遮光板(ヨロイ、遮熱板)

遮光板は、温度上昇の要因となる直射日光や熱源からの放射による赤外線を遮ることで、制御盤の温度が上がらないようにするものです。遮光板と制御盤との間に空気の隙間を作ることで温度上昇を抑えています。ヨロイや遮熱板とも呼ばれています。

遮光板は屋外に設置する制御盤に取り付けられますが、あくまで簡易的な対策であり、熱対策の効果は高くありません。

3.2. 冷却ファン(強制換気)

冷却ファンは、制御盤にファンを付けて筐体内部の熱を外へと放出するものです。内部の空気を強制的に排出するため強制換気とも呼ばれています。この冷却方法は効果が高く、制御盤だけでなくパソコンなど多くの機器類に使用されています。

ただし、冷却ファンには外気を吸い込む欠点もあります。外気の温度が高い場合、盤内は冷却されず、温度は下がりません。あくまで外気の温度が低い前提で使用する熱対策です。また、外気に塵やオイルミストなどが混ざっていると故障に繋がります。

3.3. 熱交換器

熱交換器は、熱伝導率の高い銅などを使用してヒートシンクを作り、盤内の熱を外部に移動させ、移動した熱を冷却ファンで冷却することで内部の熱を取り除きます。内部の熱と外部の冷気を交換していることから熱交換器と呼ばれています。

熱交換器は、外気と盤内の温度差が大きいほど有効です。逆に温度差が小さいと冷却の効果は望めません。

3.4. 盤用クーラー

盤用クーラーは、制御盤冷却用のクーラーを設置することで筐体内を冷却します。確実に冷却できますが、常にクーラーが付いているためランニングコストは高くなります。しかし、高温になって素子類が故障するよりも盤用クーラーを設置した方がコスト的には得になる可能性があります。そのため、使用環境と制御盤に使用する機器類の耐熱性を確認したうえで設置が検討されます。

盤用クーラーは冷媒を冷却するので、外気よりも温度が下がります。このため、水蒸気が結露してしまう恐れがあり、結露した水を取り去って除湿することが求められます。

4. 熱対策には冷却以外にも効果がある

制御盤を密閉した状態で冷却できる熱交換器や制御盤クーラーには、熱対策以外に防塵や除湿効果が期待できます。具体的に解説します。

4.1. 防塵効果

電子機器は塵に弱く、塵がたまると故障や出火の原因となります。制御盤において、塵は主に外部から侵入してくるので、制御盤を密閉した状態にしておくと盤内に塵はほぼたまりません。そのため、制御盤を密閉した状態で冷却できる熱交換器や制御盤クーラーには防塵効果があります。

一方、冷却ファンは外気を吸い込むため、大気中の塵も常に吸い込み、制御盤内に塵が蓄積していきます。塵や化学物質、オイルミストなどが多い環境で冷却ファンを使用すると、故障のリスクを高めてしまいます。

4.2. 除湿効果

温度の低い物体には結露が生じますが、これはクーラー使用時にも起こる可能性があります。クーラーは外気の温度を下げるため結露が生じますが、この現象を応用することで除湿対策ができます。空気を冷却する際に冷たく冷えた冷却コイルを通すことです。このコイルで結露が起こり、空気中の水をトラップできます。冷却コイルを通り抜けた空気からは水蒸気が取り除かれており、その分湿度が下がる仕組みです。

5. 想定される制御盤の熱対策と対応

制御盤の熱対策としては一般的に安価な冷却ファンを取り付けることが多くなっており、たいていの場合は冷却ファンと防塵フィルターで冷却と防塵の効果を得ています。この方法は安価ですが、冷却ファンは外気を取り込んでしまうため、塵が多い環境やオイルミストなどが多い工場などでは、どうしても不具合につながってしまいます。不具合が発生すると、修理費用と共に、装置の停止による損失も発生します。

一方、制御盤クーラーを設置すればこの問題は解決できますが、盤用クーラーは高額な上、常にONのままですので、ランニングコストが気になるところです。

三笠精機では、これまで積み重ねた知見とデータから、どういう環境で故障しやすいのか、また、故障した際にかかる費用はいくらなのかなど、様々なデータを蓄積しています。そのデータを活用し、盤内クーラーを設置したほうがいい環境では盤内クーラーのランニングコストと故障の際の修理費用、装置の停止による損失額を計算し、熱対策をご提案しています。

その結果、三笠精機が熱対策を行った制御盤には想定外の故障はほとんどなく、結果的に運用コストは低減に貢献しています。

6. まとめ

半導体や電解コンデンサなど、制御盤に使用される素子の幾つかは、アレニウスの法則に従い、10度温度が上がれば寿命は半分になるといわれています。このため、制御盤の使用環境により適切な熱対策が必要になります。

三笠精機では、これまでの経験をもとに適切な熱対策を提案させていただく一方、万が一故障が発生しても「ワンストップサービス」により直ちに修理対応いたします。制御盤の熱対策でお困りの際は、ぜひ一度、三笠精機にご相談ください。