機械安全

2022年3月16日

かつての日本と世界標準、「安全」の考え方の違い

かつて日本の製造現場では怪我をしたことを武勇伝のように語る方もいらっしゃいましたが、今の世界標準では回復しない怪我は許容できないものと解釈され、訴訟などに発展するリスクが高くなっています。

装置の安全な構造という観点から見ると、日本人は真面目であるが故に、多少危険な装置でも怪我することなく使用できていたという側面があり、長らく安全設計についての規制が強化されていませんでした。対して欧州では、そもそも安全とは努力や人の教育で実現するものではなく、事故が起こることを前提としてコストをかけて技術力により実現するものであるという考え方であり、その中でCEマーキングという包括的なルールが生まれました。今後は日本でも、国際的に採用されている安全やリスクの考え方を積極的に取り入れ、労働者やユーザーなど装置に関わる全ての人の安全と健康を担保する意識を高めていく必要があります。

製造者責任の考え方

製造物責任法(いわゆるPL法)は、製造者責任を徹底的に追及するための法律です。事故が起きれば、全てメーカー責任とみなされます。その際、「メーカーとして最低限の安全設計責任を果たしていたこと」を立証できることが重要です。認証機関に評価を依頼し、安全規格への適合証明をしていた場合、万が一事故が起きた場合にもメーカー責任を果たしていたと解釈される可能性が高くなります。ただし、リスクアセスメントの漏れや評価ミスなどに代表される、メーカーでないと知りえないリスクに起因する事故については、メーカー責任を追求される可能性が高くなります。

認証機関は安全設計の立証手段ではありますが、決して「保証や補償」をしてくれる機関ではありません。特に海外出荷時の安全設計については、今一度確認されることをお勧めします。

三笠精機では、装置のリスクアセスメント手法の解説や評価も可能です。電気回路設計も併せてご依頼いただければ、間違いのない最適な安全回路の構築を提供いたします。

機械安全における基本規格

安全規格は多岐に渡りますが、ISO/IECガイド51に基づき、大きく3段階に分かれます。

全ての規格を熟読することは難しいため、認証機関やコンサルタントに概要のみ確認することをお勧めします。

三笠精機では、これまでさまざまなカテゴリの製品評価実績がありますので、複数パターンを提案させていただくことが可能です。なお、安全設計の妥当性判断やコストまで含めた総合判断は、メーカー様で最終判断いただくこととなりますが、ご判断に迷われた場合には、参考意見をお伝えすることは可能ですので是非ご相談ください。

安全と生産効率の両立~Safety 2.0 の考え方(協調安全)

時代と共に、「安全」の概念も変化しています。高度成長期頃は、KY(危険予知)活動など、人が注意するにより達成する安全が主流でした(Safety0.0)。その後、危険源をなくしたり隔離したりすることで、機械そのものを安全にすることが重視されるようになりました(Safety1.0)。

一方で、隔離はシャッター開閉時間などで生産効率が落ちたり、ガードフェンスでスペースが大きくなるといったデメリットがありました。それらのデメリットを解消しつつ、安全も確保するのが協調安全という考え方であり、その時代を表現するキーワードとしてSafety2.0と言われるようになりました。

具体的な機能には、以下のようなものがあります。

  • 近づいたら動作がゆっくりになり、さらに近づいたら止まる
  • 近づくものが人なのかそれ以外なのかを判別し、人が近づいた時だけ減速・停止する
  • リスクが高くなる条件(時間、温度、明るさ、疲労度など)を検出して、最適な動作制限を行う

また、自動車の急ブレーキアシスト(ブレーキを踏み込み切れていない場合に急ブレーキ操作が出ることを検出し、自動でブレーキを踏みこむ)と同様に、非常停止ボタンなどのアシストも考えられます。まだまだ発展途上であること、Safety1.0時代のPL計算のように画一的な安全性評価ができるものではないことから、個別の案件に応じた詳細検証が必要です。

三笠精機では、ロボットなどの協調安全の実績もありますので、安全と生産性の両立が必要な場合のサポートも可能です。

機械のリスクアセスメントおよび安全方策

リスクアセスメントにおいて最も重要なポイントは、メーカーが判断し、全責任を負うという点であり、トップダウンにより組織全体で意見を出すことです。

30年に1回の確率で、販売した100台の装置で誰かが命にかかわるような大怪我をするかもしれない、5年に1回の確率で、指を挟んで血豆や痣ができるかもしれないといった、これ以上リスク低減が難しいリスクに対し、許容できるかどうかの判断に迷う事例は非常に多いです。それでもメーカー自身が、その判断を行う必要があります。

最終判断は上記の通りメーカー様で行っていただく前提で、三笠精機では、これまでの多くの認証機関評価への立ち合いを行った経験から、平均的な観点での意見をお伝えすることが可能です。

安全を評価する際には細かな規格を根拠にすべき

リスクアセスメントにおいて、怪我をしないなどの根拠には、規格を用いるのが妥当です。

  • 指が入らないようにした
  • 手が届かないところまで距離をとった
  • 指を挟まないように隙間をあけた
  • 当たっても大きな怪我にはならない
  • 光が目に入っても大きな影響はない

などを、感覚で設計してしまうとリスクがあります。

一口に作業者と言っても、身長、年齢、性別、性格、注意力、力の度合いなども大きなばらつきがあります。「誰が使っても安全」にするには、人の努力や教育に依存するのではなく、努力しても事故は起こることを前提に、リスクや危険を技術的に回避するという考えに基づく基準を導入すべきと考えます。

隙間はISO13855や13857、接触により怪我をするかどうかはISO TS 15066 付属書A生物力学的限界、光の影響はIEC62471など、それぞれ基準があります。ISO13857などは比較的厳しい基準がありますが、その基準で設計することが重要と考えます。